潜在するマンション管理・維持問題

東京都江東区にある約160戸のマンション。管理人の佐藤さん(仮名)が4月に72歳の誕生日を迎え、定年となった。と同時に、管理会社との契約で3人と定められた管理人が1人欠員となった。

【図】高齢者の就業率は右肩上がりだが…

 このマンションを管理する会社は、佐藤さんが定年を迎える1年以上前から人員を募集していた。だが、この日まで応募はなかった。

 「このような事態は都心部のあちこちのマンションで起きている」。複数の管理会社の幹部はこう口をそろえる。

■管理人がつねに15%程度不足

 他のサービス業と同様、人手不足に直面しているが、その実情はほとんど知られていないのが、マンション管理業界だ。

 たとえば東京の城西地区を軸に展開する大手管理会社は、物件に必要な管理人がつねに15%程度不足しているという。

 マンションでは、管理組合が実際の清掃やフロント業務を専門の管理会社に委任する。管理会社は、マンション1棟だけを管理する会社から、42万戸を管理する大京アステージや独立系の日本ハウズイングなどの大手まで、2185社(国土交通省調べ)がひしめく。

 そのうちの1社の幹部は言う。「われわれは新規受注獲得、業容拡大が使命。管理人さんがいないのでこれ以上引き受けられない、できませんとは言えない」。

マンションの「3つめの老い」

 管理会社は、管理人の急な休みに対応するため代勤の要員を抱えている。3年ほど前までは受注を先行させても、代勤要員をやり繰りして何とか帳尻を合わせてきた。だが、担い手の高齢化が進み、それもいよいよ難しくなってきた。

 少し前までマンションは二つの“老い問題”を抱えているといわれた。マンションの老朽化と住民の高齢化。そこに管理人の高齢化が加わった。「この三つ目の老いが意外と知られていない」と言うのは、日本ハウズイングの小佐野台(うてな)社長だ。

■応募者自体が減っている

 管理人への応募者自体が減っているという声もある。マンションの管理人は、60代、企業の管理職経験者というのが相場だった。それがここ数年、企業の定年延長、再雇用の動きが顕著となり、応募者が雇用市場に登場しにくくなっている。

 実際、2012~2013年ごろから60歳以上の就業率が急上昇している。大和ハウス工業やサントリーホールディングスなど、大企業が相次いで「65歳定年」を打ち出した年でもある。

 「都心5区の管理人の時給は今や1200~1300円。しかも交通費は別。数年前は1000円以下だったのに」と別の管理会社も嘆息する。しかもこれだけ賃上げしても、人はなかなか集まらないのが現状だ。

 管理会社も手をこまぬいていたわけではない。3年ほど前から定年延長や時短勤務など、考えられる手は打ってきた。ある大手管理会社では、採用開始年齢の上限を60歳から67歳にする一方、定年も65歳から70歳に引き上げた。70歳以降は体調が良好で管理組合からの要請があれば、72歳まで働けるようにした。

 別の管理会社は9時~5時の時間指定ではなく、1日3時間という拘束時間でも働けるよう、管理組合と交渉し契約内容を変更した。

 ただ、「定年延長はしょせんカンフル剤にすぎない。カンフル剤を打てる間に何とかしなければならないのだが……」と、野村不動産パートナーズの黒川勇治社長は思案投げ首の体だ。